法人破産

会社が破産・倒産した!未払い給料を支払ってほしい

会社が破産・倒産した!未払い給料を支払ってほしい

「勤務先からの給料が遅れたり、支払われなかったりして、社長からは待ってくれと言われていたのに、突然、会社が倒産してしまい、給料がもらえなかった」

もしそうなったら、未払いの給料はどうなるのでしょうか? 会社が倒産したら泣き寝入りをしなければならないのでしょうか?

今回は会社が破産・倒産したときの、従業員の未払い給与の取り扱いについて解説します。

1.未払い給料・退職金はどうなるのか

ひと昔前の日本社会は「終身雇用」が前提で、一度就職したら定年まで一つの会社に勤めるのが当たり前の時代でした。

しかし、バブル崩壊、リーマンショックなどをきっかけに景気は悪化し、その影響により倒産する会社は続出。現在は倒産件数こそ減ってはいるものの、大企業に就職すれば一生安泰という時代ではなくなっています。

ある日突然、会社の破産・倒産により勤務先がなくなるのは、誰にでも起こりうることで、その際に最も気になるのは未払い給与退職金の行方です。

会社が労働の対価として従業員に支給するものを「労働債権」と言い、給料、退職金、解雇予告手当などは労働債権に当たります。

一般的に破産すると、債権者には管財人を通じて破産者の財産が配当されます。会社が破産するときも例外ではなく、会社の資産が債権者に配当されます。

給与は労働債権にあたるので、従業員は会社に対しては債権者であり、未払い分の給与については配当を受けることができるのです。

しかし、全額支払われるとは限りません。未払いの時期によっては受け取れない可能性もあるのです。

2.破産開始前3ヶ月分の未払給与は優先的に受け取れる

会社が破産したとき、労働債権については他の債権に比べて、優先的に支払いを受けることが出来ることが法律で決められています。

なぜなら、債権には以下の種類があり、未払い給与は優先して支払うべき債権に該当するからです。

(1) 債権の種類

債権には「財団債権」「優先的破産債権」「一般債権」3つがあります。

①財団債権

財団債権は財産が配当される前に破産管財人から受け取れる債権です。

破産手続き中に随時受取可能で、債権の中では最も優先されます。

②優先的破産債権

優先的破産債権は、財団債権を除く一般的な破産債権の中では優先的に受け取ることができる債権です。

破産手続き中に債権額が決まり、受け取りのタイミングは配当時です。

③一般債権

財団債権、優先的破産債権以外の一般的な債権です。

ほとんどの債権は一般債権に当たり、配当出来る財産がある場合、債権額の割合に応じて配当されます。

労働債権は財団債権か優先的破産債権のいずれかであり、一般債権には含まれません。

(2) 破産開始前3ヶ月分の未払い給与は「財団債権」

未払い給与については、本来給与が支払われるはずの時期によって債権の種類が変わります。

破産開始前の3ヶ月間の未払い給与については「財団債権」に該当し、配当を待つことなく破産手続き中に優先的に受け取ることが可能です。

「3ヶ月前」のカウントの起点となるのは本人の退職日ではなく、会社の破産開始決定日です。例えば7月31日に退職して、会社の破産開始決定が8月15日だった場合、5月15日~7月31日分の未払い給与が財団債権に当たります。

給与だけでなく残業代、賞与、通勤手当なども3ヶ月以内であれば財団債権に当たります。

賞与については、会社が1月10日に倒産し、12月に支払われる賞与100万円が未払いだった場合、破産開始前3ヶ月間に該当するので全額が財団債権として扱われます。

しかし、仮に破産開始決定が4月10日だった場合、12月の賞与は財団債権とはなりせん。

また、未払給与も財団債権に当たる部分はなくなります。つまり、会社が破産手続きを早くしないと、財団債権自体がなくなる、もしくは少なくなってしまうのです。

(3) 3ヶ月以上前の未払い給与は「優先的破産債権」

破産開始から遡って、3ヶ月以上前の未払い給与は「優先的破産債権」になり、他の一般債権よりも優先的に配当を受けることが可能です。

しかし、支払を優先的に受けられると言っても、あくまでも破産債権なので、原則として配当手続き以外の方法で受け取ることはできません。

優先的破産債権は債権を裁判所に届け出て、管財人による債権調査が行われ、その内容によって金額が決められます。財団債権はその間にも支払われるので、優先的破産債権は財団債権を除いた額から配当を受けます。

ただし、労働債権は他の債権より特別扱いされることがあり、特に未払給与が受け取れないことで生活が困窮しているという場合は「弁済許可制度」により、他の債権者の迷惑にならない範囲で、配当前に給与を前倒しで受け取ることも可能です。

3.退職金は受け取れるか

退職金については、破産開始前の3ヶ月分の給与に相当する額が財団債権となり、管財人から配当を待たずに優先的に受け取ることができます。

例えば、毎月の給与が40万円の場合は、3ヶ月分の120万円が財団債権とされ、仮に退職金が300万円あり、退職時に200万円が一時支給されていた場合、未払い分の100万円は全額財団債権となります。 

退職金や未払い給与の額が分からない場合は、破産管財人に金額を聞きましょう。管財人には労働債権について「情報提供努力義務」があり、給与に関して従業員に必要な情報を与えることが義務づけられています。

管財人の連絡先が分からない場合は、会社の代理人弁護士に問い合わせることをおすすめします。

このように、労働者の給与や退職金については法律で手厚く保護されていますが、会社に財産がない場合はそもそも原資がないので未払賃金を受け取ることは不可能です。

破産するほど追い込まれている場合、会社に未払い給与を支払うだけの体力がないことも多く、その場合は、会社から支払を受けることは期待できません。

その場合、従業員が泣き寝入りすることがないように、未払い分の給与を国が立て替えて支払ってくれる制度があります。

4.未払い分は「未払賃金立替払制度」を利用する

会社が破産したときに未払い給与がある場合は、管財人に給与の請求をするだけでなく、必ず「未払賃金立替払制度」も併せて利用しましょう。

この制度は、退職前の6ヶ月分の賃金と、支払われるはずだった退職金について、最大8割を立替払してもらえる制度です。

立替払いの請求ができるのは、会社の破産申立日以前の6ヶ月間に退職をした人だけです。申請できる期間は破産開始決定日、もしくは命令日の翌日から2年以内で、その期間を過ぎると対象外となるので注意が必要です。

未払賃金立替払制度の利用方法、支払金額について解説します。

(1) 利用方法(手続き)

未払賃金立替払制度を利用するには、独立行政法人「労働者健康安全機構」のホームページから立替請求書をダウンロードします。

請求書と証明書がセットになっているので、請求書は氏名、生年月日、請求額など必要事項を自分で記入します。証明書は未払い給与を明らかにするものなので管財人に作成してもらってください。

請求書と証明書が揃ったら同機構に提出します。立替払制度については、管財人から請求書が渡されることもあるので、立替払制度を利用する前に一度会社に相談することをおすすめします。

(2) 支払金額

未払い賃金の立替払制度の対象となるのは月々の給与と退職金だけです。残業代や通勤手当も含まれますが、賞与、解雇予告手当などは定期賃金ではないので含まれません。

支払金額は先述の通り、会社の破産申し立て日より以前の6ヶ月間の給与と退職金です。

しかし、立替金額は退職時の年齢ごとに上限があり、未払い給与と退職金の総額限度額に対する立替上限は以下の通りです。

  • 29歳以下…88万円 (立替上限)/ 110万円(総額限度額)
  • 30~44歳以下…176万円(立替上限)/ 220万円 (総額限度額)
  • 45歳以上… 296万円(立替上限) / 370万円(総額限度額)

例えば毎月の給与が30万円の人(退職金は100万円)が立替払いを請求した場合、破産申立日以前の6ヶ月分の給与が未払いの場合は、45歳の人は総額限度額が370万円なので、180万(給与6ヶ月分)+100万(退職金)=280万円請求できることになりますが、40歳の場合は総額限度額が220万円なので、立替払いしてもらえるのは176万円が上限です。

(3) 財団債権との関係

財団債権と未払賃金立替払制度は重複期間がありますが、財団債権より先に立て替え払いを受けた場合は、まず退職金相当額が充当され、次に日付の古い順から未払い給与が支払われます。

立替払制度と財団債権で未払い給与と退職金が全て支払われた場合は、優先的破産債権はなくなります。もし、立替払いと財団債権を合わせても未払い分に充当できないときは、残りの額が優先的破産債権となります。

前述の通り、労働債権には弁済許可制度が適用されるので、優先的破産債権であっても生活に困っている時には、他の債権より優先して破産手続き中に支払いを受けることが可能です。

会社の破産申立が著しく遅れた場合は、財団債権もなくなり、立替払制度も利用できなくなる恐れがあり、その場合は全額が優先的破産債権となります。

そうなると未払い給与は配当まで受け取れなくなり、最悪受け取りは半年後になってしまいます。

弁済許可制度は、そうした場合でも労働者に不利益がでないように設けられた制度なので、会社に資産が残っていれば時間を置かずに受け取ることができます。

弁済許可を申し立てる場合には、破産管財人にお願いをすればOKです。

5.泉総合法律事務所は法人破産実績も豊富

会社が破産・倒産をしたとき、未払い給与や退職金は優先的に受け取ることができます。会社に資産がない場合でも、国の未払賃金立替払制度があるので、不足分を請求することも可能です。

もし、会社が倒産して未払い給与がある場合で、管財人にも相談できない状況にある方は、泉総合法律事務所に一度ご相談下さい。

泉総合法律事務所は会社破産の取り扱い経験が豊富にあり、未払い給与についても解決実績が多数ございます。もちろん、経営者の方のご相談も承っております。

もし、勤め先の破産で給与の支払いがない、社員への給与が支払えない、そんなお悩みを抱えている場合は、一度ご連絡下さい。専門家が親身になってサポート致します。

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