配偶者が自己破産をした場合、どのような影響が生じるか
「自己破産」手続きは、裁判所によりあらゆる借金の返済義務を全額免除してもらえる債務整理手続です。
もっとも、生活必需品を除くほとんどの財産を処分されてしまう、信用情報に傷がつき今後の借入が暫くできなくなる、資格制限があるなど、いくつかのデメリットやリスクがあることも否定できません。
配偶者が自己破産する場合には、もう片方の配偶者にも何らかの影響が生じてしまう場合があります。
しかし、それを避けようと慌てて対処を誤ると、思わぬ落とし穴に落ちる危険性があります。
このコラムでは、配偶者(夫婦の片方)が自己破産した場合に家族に生じる様々な問題点・影響を解説します。
自己破産をする前に、ぜひ正しい知識を確認いただければと思います。
このコラムの目次
1.配偶者が自己破産することによる影響
借金を支払いきれなくなってしまった債務者が裁判所に申立てをして、最低限生活に必要な財産(自由財産)以外の高額な資産を処分・換価・配当する代わりに、借金の支払い義務を免除してもらう債務整理手続が「自己破産」です。
早速ですが、配偶者がこの自己破産することにより、もう片方の配偶者にどのような影響が生じるのかを解説しましょう。
(1) マイホームからの退去
破産者名義、もしくは夫婦共同財産の場合、住宅ローンが残っていればマイホームは処分されてしまいます。
住宅ローンを借りた相手の銀行やローン保証会社に、抵当権を行使され、競売にかけられてしまうのです。
住居が賃貸で、家賃の滞納がなければ、原則として日常生活に支障が出ることはありません。
また、別居家族であれば、すぐに直接的な影響が及ぶ可能性も少ないでしょう。
(2) 連帯保証人の場合は一括返済される
自己破産手続により借金が免除されても、連帯保証人(保証人)は支払責任を免れることは出来ません。
そのため、破産者となった配偶者のいずれかの借金の連帯保証人になっている場合、片方の配偶者は、連帯して支払義務を負っている借金の残高を一括で支払わなければなりません。
それが不可能であれば、夫婦ともども、自己破産などの債務整理を検討することになります。
[参考記事]
連帯保証人がいるときの自己破産|主債務者と保証人それぞれの対応策
(3) 資格制限により世帯収入が減少するおそれ
弁護士・司法書士などの士業、生命保険募集人、宅地建物取扱業、旅行業者、警備員など、主に他人のお金を扱う職業・資格により働くことは、自己破産手続中は制限されてしまいます。
同じ会社の中で期間中のみ配置転換ができればよいのですが、場合によっては、手続中は休職する・転職をすることになる可能性もあるでしょう。
その場合、家計の収入が減少するおそれがあります。
配偶者が自己破産手続をしたとしても、戸籍や住民票に記載がされることはありませんから、この点の心配は無用です。
また、査定額が20万円以上の車・バイクやブランド品は、一定額以上の財産として処分されてしまう可能性が高いですが、それ以下の物品は手元に残せると考えて良いでしょう。家具・家電・99万円以下の現金、破産しない配偶者名義の資産なども問題なく残すことができます。
更に、自己破産をすると通称「ブラックリスト」と呼ばれているものに登録されてしまい、消費者金融から新たに借入をしたりクレジットカードを新規作成したりすることができなくなりますが、この影響は本人にのみ生じるものですので、片方の配偶者や何の問題もなく借入やクレジットカードを利用することができます。
2.配偶者の自己破産と離婚の関係
(1) 自己破産する配偶者と離婚することはできるか
配偶者が自己破産手続に至るまでの間に、借金に関して夫婦間に亀裂が走り、離婚を考えるようになってしまうということはよくあります。
夫婦間での協議による離婚であれば、理由に制約はありませんから、自由に離婚できます。
しかし、相手が応じず、裁判で離婚をしたいという場合には「借金があること」「配偶者が自己破産手続をしたこと」だけでは、裁判所は離婚を認めてくれません。
重要視されるのは、借金をした原因の方です。
「浪費やギャンブルなどで常に多額の借金を抱えていて、生活が維持できない」など、その相手とは婚姻生活を継続することが極めて難しいと認められることが必要です。
(※なお反対に、自己破産をしても結婚には何も影響は生じません。)
(2) 養育費は破産で免責されない
自己破産後に離婚した、もしくは自己破産手続前から別居や離婚をしていた場合、発生する養育費や別居中の婚姻費用は、自己破産をしても支払負担が無くなることはありません。
つまり、例えば別居していた夫が自己破産をしたとして、それまで妻に払えず滞納していた養育費・婚姻費用も免除されるかといえばそのようなことはなく、「非免責債権」として免責の対象外になるのです。
自己破産後に支払う必要のある養育費についても、もとより免責されることはありません。
(3) 離婚に伴う財産分与と自己破産
先ほど「夫婦間の協議による離婚には制約がない」と説明しましたが、これを利用して、離婚による財産分与(夫婦が結婚中に共同で築いてきた財産を、離婚に際して分配する制度)を用い、財産を破産者からその配偶者に移せば処分される財産を減らすことができる、と考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは絶対にやってはいけないことです。
なぜなら、「免責不許可事由」として借金が免除されない危険や、犯罪となるおそれがあるからです。
自己破産する際には、過去2年以内の離婚による財産分与の内容を裁判所に申告しなければなりません。
不相当に過大な財産分与がなされたときには、「詐害行為」に当たるおそれがあります。
「詐害行為」は、債権者に配当されるはずの財産を他人に譲り渡すなどして、債権者の利益を侵害する免責不許可事由です。
「免責不許可事由」とは、原則として免責許可決定がされなくなってしまう事情です(免責=借金が0になることです)。
実務上は、裁判所が債務者の事情を考慮して免責を認める「裁量免責制度」があるため、ほとんどの場合は免責不許可事由があっても免責がされています。
ただし、悪質な場合には本当に免責されないこともあります。
もし、財産分与が詐害行為とされてしまうと、その調査のために「破産管財人」という手続の監督者が裁判所により選任されます。
破産管財人が選任される手続である「管財事件」では、手間や費用が一気に跳ね上がるおそれがあります。
また、自己破産直前に離婚をしていた場合には、最悪、財産隠しを目的とした偽装離婚であるとして、詐欺破産罪に問われることもあります。
詐欺破産罪となれば、破産者だけでなく、その配偶者にもそろって刑罰が科されることになってしまうでしょう。
財産分与が「不相当で過大」かどうかは、配偶者の借金や財産はもちろん、離婚原因や夫婦それぞれの収入や家計の状況など、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。そのため、法律の専門的な知識がなければ、財産分与をしてよいか、財産分与をしても詐害行為とならないかの判断は難しいでしょう。
配偶者の自己破産を機に離婚を検討されている方は、この件についても夫婦そろって弁護士に相談したほうが良いでしょう。
3.夫婦の片方が自己破産をお考えなら泉総合法律事務所へ
配偶者が自己破産手続をすると、住宅ローンや自動車のローンの状況、配偶者の借金に対する連帯保証の有無などにより、様々な問題が生じるおそれがあります。
かといって、離婚を急いでしまっても回避できるデメリットはほとんどありません。
むしろ、離婚による財産分与が自己破産に悪影響を与えるおそれがあります。
「自己破産を考えているが、配偶者への影響が心配だ」「配偶者の借金が膨れ上がり自己破産をするようだが、それにより何らかの不利益を受けてしまうのではないかと不安を抱いている」という皆様は、夫婦そろって、お早めに泉総合法律事務所にご相談いただくことをお勧めします。
泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を、自己破産手続を含む債務整理手続で解決してきた豊富な実績がございます。
どうぞお気軽にお問い合わせください。
-
2018年8月21日債務整理 国分寺にお住まいで借金についてお悩みの方へオススメの解決方法
-
2018年8月2日債務整理 ブラックリストでも融資OKの危険性|闇金は厳禁!正しい借入方法
-
2019年1月17日債務整理 通帳で全部お見通し!?個人再生における預金通帳の扱い