交通事故の被害者が専門家弁護士に解決を依頼すべき5つのメリット
交通事故の被害者となったときは、弁護士に依頼して加害者側の保険会社との交渉を担当してもらうことがおすすめです。
弁護士に依頼するメリットには、精神的なメリットと経済的なメリットがあります。また、経済的なメリットには、これを活かせる場合とそうでない場合があります。
ここでは、弁護士に依頼する経済的なメリットが活かせる5つの場面を解説します。
このコラムの目次
1.交通事故に強い弁護士に依頼するメリット
交通事故の損害賠償問題を弁護士に依頼することのメリットには、精神面のメリットと経済面のメリットがあります。
(1) 精神面のメリット
メリットの第1は、損害賠償をめぐる交渉から解放され、精神的負担がなくなることです。
交通事故の被害者は、肉体的にも精神的にも傷を負っています。職場の休業、学校の欠席、家事、育児などを気にしながらも通院も続けなければなりません。
そのような被害者が、加害者側の保険会社と損害賠償をめぐって、慣れないやりとりを続けなければならないとしたら、その精神的負担は大変な重さです。
これを法律の専門家である弁護士に一任してしまえば、被害者はわずらわしい交渉から解放され、最も大切な体の治療に専念し、本来の仕事、学業、家庭にエネルギーを注ぐことができます。
(2) 経済面のメリット
メリットの第2は、損害賠償額の増額が期待できるという経済面の利益です。
では、弁護士に依頼すると、どうして損害賠償額が増額されるのでしょう?
①損害賠償額を決める基準
交通事故の示談交渉で保険会社が提示してくる賠償額は、その保険会社の内部基準にしたがって計算をした金額です。これを「任意保険会社基準」と呼びます。
営利企業である保険会社は、保険金の支出を抑えるために、交通事故の損害賠償問題が裁判所での訴訟になった場合の相場の金額に比べて、非常に低い賠償額しか提示してきません。
これに対して、弁護士が代理人として保険会社と交渉をする場合は、裁判所での訴訟になった場合の相場の金額、言いかえれば、裁判所が認める金額で請求をします。これを「弁護士基準」や「裁判所基準」と呼びます。
②高額なのは弁護士基準(裁判所基準)
損害賠償の金額を最終的に決める権限があるのは裁判所だけです。その裁判所が認める賠償額の基準ですから、本当の意味で正しい基準と言えるものは、弁護士基準(裁判所基準)の1種類しか存在しないと言えます。
保険会社が低額な内部基準で提示してくるのは、弁護士基準(裁判所基準)の存在を知らない被害者が、保険会社の内部基準が正しいと思い込んで示談に応じてくれれば、保険料を節約でき、それが保険会社の利益となるからに他なりません。
このため、示談交渉の途中で被害者が弁護士に依頼をすれば、ほとんどの場合、保険会社が提示した金額よりも賠償額を増額できるのです。
逆に言えば、弁護士に依頼をして弁護士基準(裁判所基準)で保険会社と交渉をしない限り、被害者は本当に正しい金額の賠償金を受け取ることはできないということです。
2.経済面のメリットを活かせる場面とは
さて、経済面のメリットは、これを行かせる場面とそうでない場面があります。
弁護士に依頼をすれば、弁護士基準(裁判所基準)でほとんどの場合に賠償額が増額される反面、弁護士費用がかかります。
せっかく賠償額が増額しても、その増額分が弁護士費用で消えてしまったり、増額分以上の弁護士費用がかかったりしてしまえば、増額が被害者の手取り額に反映せず、弁護士に依頼する経済面のメリットはなくなってしまいます。
逆に、メリットを活かせる場面というのは、弁護士に依頼したことによって、被害者の損害賠償額の手取りが増える場合ということになります。
この意味で、経済的なメリットを活かしにくいのは、全体としての損害賠償額が低額となることが見込まれるケースです。具体的には、物損事故や、人身事故であってもケガの程度がごく軽い場合が考えられます。
他方、経済的なメリットを活かしやすいのは、損害賠償額が比較的高額となることが予想されるケースや、弁護士の活動が損害賠償額を左右する度合いが高いケースなどです。
以下では、この経済的なメリットを活かしやすい5つの場合について説明をします。
3.メリットを活かせる場面の具体例
(1) 重症事故や死亡事故
弁護士の費用はオープン価格ですが、多くの弁護士事務所では、その事件における依頼者の「経済的利益」を基準にして弁護士費用の算定をしています。経済的利益とは損害賠償の金額です。
例えば、次のような算定方法です。経済的利益(損害賠償額)を基準として、
- 300万円以下の場合、着手金は8%、報酬金は16%
- 300万円を超え3000万円以下の場合、着手金は5%+9万円、報酬金は10%+18万円
- 3000万円を超え3億円以下の場合、着手金は3%+69万円、報酬金は6%+138万円(以上は税別)
実際、このような決め方をしている事務所は多くあります。これは弁護士会の旧報酬会規(現在は廃止)で定められていた数字であり、そのまま利用している事務所も多いからです。
上の数字を見てわかるように、経済的利益が高額になるほど弁護士費用の割合は低くなるように設定されています。
例えば、保険会社が提示した示談金が200万円で、弁護士基準で計算した損害賠償額が提示額の1.5倍である300万円であり、弁護士が代理人となって請求した結果、実際に300万円が支払われたというケースを考えてみましょう。
上の算定方法に当てはめると、弁護士の着手金は24万円、報酬金は48万円、合計で弁護士費用は72万円となります。
従って、増額された賠償額100万円のうち、72万円は弁護士費用となり、被害者の手取りは28万円しか増えないことになります。被害者が受け取ることができる増額分は全体の増額分の約28%しかありません。(ここでは、弁護士に依頼する際に実際に必要となるコピー代や切手代などの実費分は考慮に入れていません。)
他方、賠償金が高額なケースを見てみましょう。
保険会社から提示された示談金額が4000万円で、弁護士基準で計算した賠償額が提示額の1.5倍である6000万円であり、弁護士が代理人となって請求した結果、実際に6000万円が支払われたというケースを考えてみましょう。
着手金は249万円、報酬金は498万円で、弁護士費用は合計747万円となります。
従って、増額した2000万円のうち、被害者が受け取ることができる増額分は1253万円です。被害者が受け取ることができる増額分は、全体の増額分の約62%にも及びます。
このように全体の賠償額が大きくなるほど、増額した金額の割合に対する被害者の手取額の割合(増額分から弁護士費用を控除した残額の割合)も大きくなることがわかると思います(※)。
従って、人身事故のうち、ケガの程度が重症である場合や死亡事故の場合といった、賠償額が高額となることが見込まれる事故ほど、弁護士を依頼して賠償額を増額することによる経済的メリットを大きく活かしやすいことになります。
※上の計算例は説明のためのモデルケースです。実際の弁護士費用の算定方法は各法律事務所によって異なりますので、経済的なメリットの度合いも異なります。保険会社の提示額と弁護士基準との差額分だけを経済的利益と扱う事務所もありますし、着手金を不要とする事務所もあります。具体的な金額は、個々の弁護士に確認することが必要です。
(2) 後遺障害が残ったとき
経済的メリットを活かせる第2の場面は、後遺障害が残ってしまった場合です。
後遺障害が認められれば、その程度に応じて後遺障害慰謝料及び後遺障害逸失利益という損害賠償を受け取ることができます。後遺障害の程度は1級から14級までの後遺障害等級に分けられており、自賠責保険の損害保険料率算出機構がこれを審査、認定します。
この認定結果は、本来は自賠責保険の負担額を決めるための基準に過ぎませんが、訴訟の場においても、裁判所はその認定結果を事実上尊重しており、その認定結果を否定する側がその根拠となる証拠を提出する責任を負担します。
したがって、損害保険料率算出機構の等級審査の段階で、高い等級認定を受けておくことが必要となります。
そのためには弁護士に自賠責保険に対する「被害者請求」(※)という手続きで後遺障害等級認定の申請をしてもらうことが必要です。弁護士は、医療機関から後遺障害診断書や医療記録を取り寄せて、その内容をチェックし、被害者本人および担当医師とよく協議した上で、より高い等級認定を得るために、書類の書き直しや加筆を求め、再検査を依頼するなどして十分な準備をしてから等級認定を申請します。ですから、より高い等級認定を得る可能性があるのです。
後遺障害が残る場合は、弁護士の活動が賠償額の増額に大きく貢献する可能性が高く、経済的メリットが活かせるのです。
(※)「被害者請求」と異なり、等級認定の申請を加害者側の保険会社にまかせてしまう方法を「事前認定」といいます。しかし、この方法では、相手方である保険会社は積極的に高い等級を認定する努力はしてくれません。その結果、被害者にとって不満の残る結果となることがあります。
(3) 過失割合の争いがある場合
弁護士を依頼する経済的メリットが生かせる第3の場面は、過失割合について争いがある場合です。
交通事故の場合、被害者にも落ち度があるケースが多々あり、損害の公平な分担を図るという趣旨から過失相殺制度が認められています。被害者の落ち度の内容にしたがって賠償額が一定の割合減額されるのです。
過失相殺は、損害賠償額の全額を対象として、その一定割合を減額するため、受け取ることができる金額に大きな影響を与えてしまいます。
過失割合は0:100、5:95、10:90、15:85と、5%刻みで基準化されていますので、過失割合が動けば賠償額全体の5%ずつ金額が変わるわけです(実際は、ほとんどのケースで変動幅は10%です)。
単純に言えば、2000万円の損害を被ったケースで被害者の過失割合が10%であれば賠償額は1800万円となり、30%であれば賠償額は1400万円となってしまいます。賠償額が5000万円であれば5%動くだけで250万円の減額です。いかに過失割合が賠償額に与える影響が大きいかわかると思います。
保険会社は示談交渉の際に、被害者の知識不足につけ込み、「このようなケースでは被害者といえども、必ず○○%の過失割合が認められます」などと説明をしますが、それが裁判所の認めている過失割合の基準(※)よりも被害者に不利な数字となっている場合が往々にしてあるのです。
正しい過失割合で正しい賠償額を受け取るには、専門家である弁護士に依頼をして、保険会社の不当な主張と戦ってもらう必要があります。
このように、過失割合に争いがある場合も、弁護士の活動が増額に貢献する度合いが高く、経済的メリットが活かせる場合といえます。
※裁判所が認める過失割合の基準は、次の書籍で公表されています。
「別冊判例タイムズ第16号・民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」東京地裁民事交通訴訟研究会編
「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編集発行
(4) 事実関係に争いがあるとき
損害賠償額の算定に、いかに高額の基準を用いたとしても、その前提となっている事実関係に誤りがあるならば、正当な損害賠償を受け取ることはできません。
例えば、後遺障害遺失利益は、労働力が失われたことで得られなくなった収入を補てんするものですので、その算定には、前提事実として事故前に被害者が得ていた所得金額のうち、労働の対価となっていた部分を確定しなければなりません。
被害者が小規模な企業の役員である場合、保険会社は、その収入が役員報酬の名目であることから、労働の対価ではないとして、その金額に基づいて損害を算定することを拒否し、統計値である賃金センサスに基づく損害算定を主張します。
例えば、50代後半の男性被害者が、小企業の役員として身を粉にして働き、事故前に1500万円の年収を得ていても、これを役員報酬として申告していると、保険会社は1500万円の全額を労働の対価と認めることはなく、賃金センサスでの計算を主張してきます。
賃金センサス(例:平成29年度)における55歳から59歳の男性(大学又は大学院卒)の平均年収額は約513万円ですので、賠償額を算定する前提となる金額が3倍も違ってしまい、そのまま逸失利益の金額に反映されてしまいます。
そのような場合には、被害者は役員ではあっても、実際は従業員と同様の労務に従事していたこと、収入の全額がその対価であることを明らかにしなければなりません。
そのためには、会社の業務内容はもとより、事故前の被害者の稼働状況、会社内における被害者の役割、会社の収益に対する被害者の貢献内容など、被害者の仕事に関する詳細な事実を主張したうえで、ひとつひとつ丁寧に証拠をもって裏付ける作業が必要となります。
まさにそのような地道な作業を行い、事実を明らかにすることは弁護士の使命であり、被害者本人でこれを行うことは困難です。
このように、事実関係に争いがある場合は、弁護士の活動が賠償額を大きく左右する可能性が高い、経済的メリットが期待できるケースといえます。
(5) 弁護士保険特約に加入しているとき
弁護士費用が賠償額の増額部分を上回ってしまえば、弁護士を依頼する経済的メリットはなくなってしまうと指摘しました。
しかし、あなたが加入している自動車保険に弁護士費用特約がついていれば話は別です。弁護士費用特約があれば、弁護士費用の一定額をあなたが契約している保険会社が負担してくれるからです。
弁護士費用特約は、弁護士の法律相談料として10万円まで、着手金や報酬金などのその他の費用は300万円まで、保険会社が負担をしてくれます。
したがって、この保険を利用すれば、多くの場合、弁護士費用を負担することなく(または少ない負担で)、賠償金の増額部分だけを受け取ることができ、非常に経済的メリットが高くなります。
実は、契約されている自動車保険の7割以上に弁護士保険特約がついていると言われています。ところが、多くの方が、自分が弁護士費用特約の契約をしていることを忘れてしまっているのです。
交通事故の被害にあわれたら、加害者の保険会社と交渉するだけでなく、できるだけ早く、ご自分が加入している保険会社に連絡をして、弁護士費用特約への加入の有無を確認しましょう。弁護士費用特約に加入していることが分かったら、ぜひ積極的に保険を活用して弁護士を依頼し、正しい賠償金を受け取ってください。
4.まとめ
以上、交通事故の損害賠償問題を弁護士に依頼するメリットのうち、経済的なメリットを生かせる5つのケースについて解説しました。
しかし、交通事故問題において弁護士が果たすことができる役割は、ここに書ききれるものではありません。
交通事故の賠償問題でお悩みの被害者の方は、ぜひ、交通事故の解決実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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